「柊あおい」という少女漫画家をご存知だろうか。
ピンとこない人の方が多いと思う。
アラフォーりぼんっ子とジブリオタク以外はね。
代表作は『星の瞳のシルエット』、『銀色のハーモニー』。
そして『耳をすませば』と、そのスピンオフ『バロン 猫の男爵』。
それぞれがジブリ映画『耳をすませば』のと『猫の恩返し』の原作である。
『猫の恩返し』は『耳をすませば』の主人公・雫が書いた物語という設定だよ。
今日はそんな柊あおい先生の描く王道少女漫画『星の瞳のシルエット』の話。
目次
『星の瞳のシルエット』の人気
かつて、少女漫画誌りぼんで人気No.1だった『星の瞳のシルエット』。
1985~89年に連載され、『250万乙女のバイブル』というキャッチコピーがつけられた純・少女漫画である。そう。連載開始時にはアラサー、生まれてない。
どれくらい人気だったかというと、当初は『200万乙女のバイブル』というキャッチコピーが、途中から『250万乙女のバイブル』に変わるほど。ちなみに、男性読者も多かったらしい。
連載期間3年半・コミックス10巻分という長編で、主人公たちの中学2年生〜高校2年生が描かれ、更には別冊の番外編で高校3年生〜大学4年生が描かれている。
何が面白いって、主要登場人物たちの成長だけでなく、作者の絵の成長が見られるのが面白い。1巻と10巻では絵柄が全く違う。
正直、デビュー当初から今作の中盤あたりまではあまり作者の絵は上手ではない。だからこそ、ストーリーで売れている漫画なのだとも言える。
(ちなみに、今作後半以降は他の作品でも作画は安定している。)
『星の瞳のシルエット』のストーリー
主人公は沢渡香澄という真面目で可愛らしい、普通の女の子。
相手役の男の子は久住智史、勉強も家事もできる優しい男の子。
他にも二人を取り巻く友人たち。グループ交際って感じよね。
メガネっ子の沙樹、ミーハーな真理子、プレイボーイの司。高校から合流するおケイ、日野くんもそれぞれ物語で重要な立ち位置。
みんなキャラが立っていてそれぞれが代わる代わる主役になる。
ストーリー自体は王道の恋愛漫画で、最後の最後で登場人物全員カップル成立してハッピーエンド。(おケイは大学編でだけど…。)
しかし恋愛に友情物語が絡んでくるもんだからまぁこじれるこじれる。
そしてあんなに三角関係・四角関係が複雑に絡み合っていたのに、御都合主義かのように最終回で綺麗にカップルが成立する。
香澄と久住くんなんて、最初から両思いだったのに10巻分かかってようやく結ばれるのである。当時の読者たちよ、よく3年半も待てたな?
「真理子と同じ人を好きになってしまった。友達のことも大切だから自分の気持ちは押し殺さなくてはいけない。」
香澄は優しく真面目なので、自分の気持ちに蓋をしてしまうのだ。
いよいよ久住くんに告られた場面でも自分に嘘をついて久住くんをフった上、真理子に「私は失恋したからチャンスだよ!」とか言っちゃう。
そんなお人好しどこにおんの…ヒロインってどうしてこんなに優しすぎるの…。本当にもどかしい。やきもきさせられた。
そしてその気持ちに気づいて板挟みになる沙希や司。(でも決して『あんたら両思いだよ!』とは漏らさない…。)
おケイは久住くん狙ったり司狙ったり。司はプレイボーイかと思いきや香澄ちゃん追いかけて同じ高校に進学したり。沙樹はそんな司が好きだし。
全10巻分、こじれてこじれてこじれまくる。
女の友情も一度思いっきりぶっ壊れる。爽やかなイラストで、可愛らしい女の子たちが出てくるのに案外こじれ方が泥沼。リアル。
中でもストーリーを一番リアルにしてくれるのが真理子というキャラ。
女の子らしく、小柄でくるくるヘアが可愛くて、ミーハーでキャーキャーうるさくて。
そしてワガママで幼稚、嫉妬深く自分勝手。自分の気持ちを押し付けて相手の気持ちは考えない。
最初読んだときは本当にイライラした。
でもこういうキャラが一番人間臭くて、リアルで、一番私たちに近い。
そんな真理子だから、読者たちは真理子より香澄を応援したくなる。でも沙樹からしたらどちらも親友だから応援したい…板挟み…。あぁ、とにかくこの物語はもどかしいの一言に尽きる。
そしてそんな真理子にいつでも優しい日野くん。日野くんほんといい人すぎるから一番幸せになってほしい…。
30年前の少女漫画
1話はお約束?の「いってきまーす!あ、いっけなーい忘れ物!(自分の頭コツン☆)」からスタート。
香澄だけじゃなく、他のキャラの家を出るシーンから物語は始まっている。
沙樹と司が幼馴染らしく、隣同士のドアから同時に「いってきまーすっ!」。沙樹なんかお約束中のお約束、食パンくわえてるからね。
本当に昭和感ある。怪我してお姫様抱っことか、高熱で倒れたとか、ハンカチで怪我の手当をしてハンカチ返さなきゃとか。
他にもキャラたちの私服のダサさ、仕草や表情(コツン☆とかいけね!とかね)、画風には時代を感じるものが多々。
お互いの家に電話かけて親兄弟が取り次ぐってシーンも多い。今ならLINEでピロン♪である。
でも、恋愛だけは今も30年前も同じなのだ。
『星の瞳のシルエット』は実は再会の物語でもあるのだが、今みたいにSNSやLINEでパッと相手を見つけて繋がれることはない。
何年も経ってから、ラジオのペンネームで相手に気がつく。そんな奇跡みたいな恋愛が、この少女漫画の中にキラキラと息づいている。
なのに、いざ蓋を開けて見たら、友情と恋愛の狭間で嫉妬や不安で揺れ動いて思うようにハッピーエンドに行き着かない。
今みたいに簡単に繋がらないもどかしさと、今も変わらない感情のもどかしさ。
もどかしさが絶妙な焦らしとなって、10巻分一気に読み返してしまう。
番外編『ENGAGE』シリーズ
全10巻だけでなく、その後を描いた番外編『ENGAGE』シリーズは『星の瞳のシルエット』を語る上では欠かせない。
1989年に連載が終了した後、1991年に『番外編 ENGAGE』 、1996年に『番外編 ENGAGE II』が発表され、単行本になっている。
それぞれ香澄たちが大学1年の頃の物語で、香澄に一目惚れする新キャラ・遠野行(ゆき)くんというキャラ目線で描かれた物語。
そして、あんなにウブだった香澄と久住くんが「香澄!」「智史!」って呼び捨てで呼び合うようになってて読者たちがビックリする物語。
付き合って2年経てばね、2人もそれなりに大人になるよね…。
というその空白の2年の間の話が、『番外編 ENGAGE 0』(2015年)では高校3年の卒業式までが描かれている。呼び捨てで呼び合って照れるところとかね。あああむずがゆいいいい!!!
そして、『番外編 ENGAGE III』(2016年)では大学2年の沙樹と司の話が発表されている。
しかし、この0とIIIは電子書籍でしか読むことができなかった。
できなかったのだが!
2017年『星の瞳のシルエット−青春フィナーレ−』
今日買ってきたのがこれ。
2017年発売の『星の瞳のシルエット−青春フィナーレ−』。今更。ファン失格。
りぼん60周年を記念し、描き下ろし盛りだくさんで発売された。
先ほどの『ENGAGE』シリーズ0とIIIに加え、描き下ろし作品と3作が収録されている。私歓喜。
しかも、3作とも『ENGAGE』。全カップルのその後。ありがとう御都合主義!!
IVでは大学2年の真理子と日野くん、Vでは大学4年の香澄と久住くん、VIでは同じく大学4年のおケイと行くん。
かつての泥沼とは打って変わって、それぞれ大人になったキャラたちのその後が爽やか〜に描かれている。
Amazonのレビューはぶっちゃけ散々なんだけど、当時胸をざわざわさせながら読んだ私たちが「よかったねぇ…」とほっこりしながら読む後日談って感じ。
ドラマでもアニメでもさ、私は最終回後のちょっとした未来って覗きたい派。エンディングの後にサラッと流してくれるやつ最高。
あれを各キャラごとに丁寧にやってくれた感じ。中身などいらん。ハッピーエンドをもう一声ハッピーエンドにしてくれてる続編。
何より30年越しの後日談ってところも含めて、こちらもいろいろな思いが高まる。そうよ私は懐古厨。(私はリアルタイムで読んでないので15年ぶりくらいなんだけども…。)
真理子が大人になって、本当に可愛らしく彼氏を愛する乙女になっていて私は嬉しい。
柊あおいの魅力
『星の瞳のシルエット』の次が『耳をすませば』だったのだが、後にジブリ作品になっておきながら原作は4回で連載終了してしまっている。(こちらも後日談としてもう1冊単行本になっている)
ジブリ作品とはまた一味違うのでおすすめ。私は映画の聖司くんも原作の聖司くんも好きだ。杉村も好きだ。
そしてその次のもう一つの長編連載、『銀色のハーモニ』。こちらは本当に爽やかで素敵な恋愛漫画なので是非おすすめしたい。私の柊あおいは『銀色のハーモニー』からでした。
ピアノの上手い男子・海くんマジイケメン。主人公の琴子も本当に可愛い。
こちらももちろん両思いながらも最後の最後でようやく恋が成就。柊あおいはこのパターンです。
是非、このもどかしさを、元祖「ムズキュン」を楽しんでみてほしい。